3月 022012
アメリカの中心的な価値観であった自尊心が、社会を蝕むナルシシズムへと変容していく様を二人の心理学者が、ナルシシストの行動と社会現象を分析して辿っている。
多くの自己啓発書で重要だとされてきた「自尊心」がナルシシズムに繋がる危険なものだとする考えに違和感を覚えつつ小気味良さを覚える。「自分を愛する」ことは難しく、「自分を愛すれば他人からも愛されます」をちらつかせながら自尊心の大切さを説かれるより「自尊心がなくても人を愛せる」という考え方の方が気楽だ。
ナルシシズム的価値観をつくりだした大きな一因としては、自己賛美が成功への鍵だと信じた親が、「愛してる」ではなく「お前は特別だ」と言い聞かせて子供を教育したことが挙げられる。「愛するより勝て」というメッセージを心に刻み、愛情や思いやりという感情を置き去りにして、特権意識の強いナルシシストとして育った若者は、恋愛関係でも優位に立とうとする。相手に無関心であればあるほど立場が強くなる「無関心の法則」が彼らの戦略だ。プライドが高いために他者からの拒絶に弱いナルシストは複数の相手を常に必要とする。恋愛相手としては最悪な冷たい浮気者だが、華やかさをアピールすることに長けたナルシシストはチョコレートケーキのように危険で魅力的だ。
華やかな部分だけを切り取って見せびらかすことで「特別な人」のふりができるソーシャルネットワーキングサービスが感染経路となってナルシシズムが疫病のように蔓延していく。
バーチャルな世界で幸せ較べに勝つと「特別」になれるんだろうか? 「特別」は幸せとイコールなのか? 注目よりやっぱ欲しいのは愛なんじゃないの。